「口裂け女」という「ミーム(Meme)」

ミーム(Meme)」という観点でこの「世界」を眺めると、
面白い切り口がたくさん出てきます。
 
ちょうど、「ジーン(Gene)」という観点で「生命」を眺めると、
「なるほど!これなら筋が通る。」という納得感があるのと同様に、
ミーム(Meme)」についても、
「なるほど!こういうことだったのか。」という気づきがあるのです。
 
それは、「主体」を変えるということ。
私たち「生命」の視点から、「遺伝子」の視点に切り替えてみる。
また「世界」についても、「情報」本体側の視点に切り替えてみる。
そうすると、
かつて天動説から地動説になって、見えてくることがたくさんあったように、
今まで見えなかった様々なことが、生き生きと見えてくるようになるのです。
 
今日は、かつて日本を一世風靡(いっせいふうび)した、
口裂け女」という「ミーム(Meme)」について、ご紹介したいと思います。
 
口裂け女」のウィキペディアは、こちらです。
 
ウィキペディアによりますと、

1979年の春から夏にかけて日本で流布され、社会問題にまで発展した都市伝説。
2004年には韓国でも流行した。

となっています。
どのようなお話だったか、具体的に振り返ってみましょう。

マスクをした若い女性が、学校帰りの子供に「わたし、きれい?」と訊ねてくる。
「きれい」と答えると、「……これでも……?」と言いながらマスクを外す。
するとその口は耳元まで大きく裂けていた、というもの。
「きれいじゃない」と答えると鎌や鋏で斬り殺される、と続く。

非常に有名な話なので、現役世代ではない人でも、
この「ミーム(Meme)」を知っている人は多いと思います。
トイレの花子さん」とか、他にも有名な都市伝説は時代時代でいくつか存在しますが、
この「口裂け女」のすごいところは、実際に警察までも動かしてしまったということです。
当時私は、小学校低学年でしたが、
友達の家で口裂け女から逃げる方法を真剣に議論していた記憶がおぼろげながらにあります。
おそらく当時、
子どもから大人の一部まで「口裂け女」を信じきっていたのではないでしょうか。
警察が動いた当時の話を、以下に引用します。

この都市伝説は全国の小・中学生に非常な恐怖を与え、
パトカーの出動騒ぎ(福島県郡山市・神奈川県平塚市)や、
北海道釧路市・埼玉県新座市で集団下校が行われるなど、
市民社会を巻き込んだパニック状態にまで発展した。

この「ミーム(Meme)」、すごくないですか?
人々は真剣に「口裂け女」の恐怖に怯えました。
ただの他愛もない噂話が、文字通り日本社会を震撼させたのです。
 
どうしてこんなことになったのか、気になりませんか?
AKB48のように、誰かが仕掛けたのでしょうか?
それではウィキペディア先生の力を借りて、その発祥を見ていきましょう。

宝暦4年(1754年)に美濃国郡上藩(現・岐阜県郡上市八幡町)での農民一揆の後に
処罰された多くの農民の怨念が、
特に犠牲者の多かった白鳥村(現・郡上市)に今なお残っているといわれ、
これがいつしか妖怪伝説となって近辺に伝播し、
時を経て口裂け女に姿を変えたとの説がある。
また明治時代中期、滋賀県信楽に実在したおつやという女性が、
恋人に会うために山を隔てた町へ行く際、女の独り身で山道を行くのは物騒なので、
白装束に白粉を塗り、頭は髪を乱して蝋燭を立て、三日月型に切った人参を咥え、
手に鎌を持って峠を越えたといい、これが都市伝説のモデルになったとの説がある。
同様に岐阜県でも、
明治または大正時代に女性が同様の姿で峠を越えて恋人のもとへ通ったという話がある。

ウィキペディア先生は、すごいです。何でも知っています。
このように無償でネットの原野に「情報」を植えていく一次生産者の人々のお陰で、
ネットの世界は価値ある熱帯雨林に成長しているのです。
私は、そういった一次生産者の人々を心から尊敬します。
お陰様で私のような二次生産者も、十分な活動ができる訳です。
話がそれました。
口裂け女」の起源をもう少し見ていきましょう。

マスコミに初めて登場したのは1979年1月26日の岐阜日日新聞とされる。
次いで『週刊朝日』1979年6月29日号に記事が掲載され、
1978年12月初めに岐阜県加茂郡八百津町で、
農家の老婆が母屋から離れたトイレに立った際、
口裂け女を見て腰を抜かしたという噂が紹介された。
1979年6月21日、姫路市の25歳の女がいたずらで口裂け女の格好をし、
包丁を持ってうろつき、銃刀法違反容疑で逮捕された事例もある。

上記以外の起源説もウィキペディアでは紹介されていますので、
口裂け女」の都市伝説に興味を持った方は、
是非オリジナルのウィキペディアのページも見てみてください。
 
やはり、マスコミの力は大きいですね。
岐阜日日新聞と『週刊朝日』によって、「口裂け女」は一気にメジャーデビューしました。
 
この「ミーム(Meme)」は、人から人へ伝わる中で、どんどん進化していきました。
最初は単なる「そういったことがあった」という怪談話でしたが、
口裂け女」の具体的な身体能力や、出会った時の対処法など、
どんどん「尾ひれ」がついていったのです。
そして、その「尾ひれ」に合わせるように、「口裂け女」の正体も突然変異しました。
どのように突然変異したかと言いますと・・・

1990年代に入り、整形手術や医療ミスなどの話題が出るに伴い、再び広まり始め、
整形手術に失敗し理性を失った女性が正体であると語られた。
またCIAが噂の広がり方を検証するために流した情報だという説もある。

とういような、整形手術に失敗した女性という現代風なアレンジが加わったのです。
口裂け女」と出会った時の対処法の一つに、

ポマードと3回(6回とも)続けて唱えると女が怯むので、その隙に逃げられる。

という話があります。
これは、整形手術をした医者の整髪料のポマードが非常に臭く、
手術中に「口裂け女」が何度も吐きそうになったトラウマから来るそうです。
ミーム(Meme)」というのは、話の通りがよくなる方向に進化していきます。
それから、CIAの噂も面白いですね。
ミーム(Meme)」の題材として「口裂け女」を取り上げた私の眼力も、
そう捨てたものではありません。
 
このように「口裂け女」という「ミーム(Meme)」は、
当時多くの日本人の頭の中に感染して増殖したのです。
「単なる都市伝説だろ?」って、軽く考えてはいけません。
例えば、国家の政治や外交。
「他の国家への民衆の評価」だって「ミーム(Meme)」なのです。
かつては日本にとって友好国のイメージでしたが、今は評判の悪い国家が存在します。
特定国家に対する悪評という「ミーム(Meme)」は、
かつての「口裂け女」よりもずっと強い勢力を持って、
インターネットという新しい「情報」環境を根城にして、感染・増殖しているのです。
逆に言えば、かつての友好国というイメージも、
テレビ等のマスコミに作られた「ミーム(Meme)」でしたが。
この「ミーム(Meme)」は、確実に日本という国家を動かしています。
 
ここでは、どちらの評価が正しいということには触れません。
私が「こっちが正しい」と言ったって、それすら「ミーム(Meme)」なのですから。
大切なことは、自分の頭で考えること。
そこにしか「(自分にとって)正しい情報」は、ないのです。
食事と同じで、「情報」もよく噛んで摂取しましょう。
 
恐ろしいのは、「ミーム(Meme)」がステルスであるということです。
ちゃんと「ミーム(Meme)」の存在に気づいて、
ミーム(Meme)」の観点で「世界」を眺めることができれば、
ミーム(Meme)」に踊らされることも少なくなります。
自身の「幸せ」を追及する上でも、
ミーム(Meme)」の強い影響に留意することは、非常に重要なのです。