「Perfect World」

「Perfect World」
※「エリカちゃんと月の音」の続編です
 
イデア・サービス」
俺が加入した新サービスの名前だ。
なんでも、その人の理想をパソコン上に表示できるらしい。
その準備として、先日俺は自分のDNAデータを先方に送信した。
先日無事DNAデータの解析が終了し、
いよいよ今日から、サービスを利用できるとのことであった。
 
まずは試しに「リンゴ」と入力してみた。
するとそこにはおいしそうな「リンゴ」が現れる。
俺の頭のイメージの「リンゴ」と全く同じ「リンゴ」が画面に表示される。
どこにもキズ一つなく、瑞々しくて、シンメトリーが美しい完璧な「リンゴ」だ。
 
これは面白い♪
次は理想の女性を表示させてみる。
(実は、これが目的の一つでもあったのだ)
「女性」とパソコンに入力する。
さすがに計算に時間がかかるようで、
足から徐々に理想の「女性」が表示されていく。
しばらくして・・・
目の前に、ドレス姿の何とも美しい女性が現れた。
名前はエリカ。高校生くらいの年齢だろうか?
 
驚いたことに彼女は俺に話しかけてきた。
「初めまして♪田中君」
俺はマイクを使って画面の中の彼女に話しかける。
「やあ、初めまして・・」
「どうしたの?元気がないわねぇ♪」
彼女の声はしっとりとしていて、不思議と俺を落ち着かせる。
そして同時に、彼女の声は屈託がなく俺を元気付けてくれる。
「ううん、何でもない。それより聴いてよ!」
俺は彼女が旧知の間柄であるかのように、話し続けた。
 
・・・話が終わったのは、朝日が昇るころ。
彼女との会話を終えて、俺は湧き上がる幸福感を噛み締める。
なんて素晴らしいサービスだろう!
 
ところが、そんな幸福感は長続きしなかった。
だんだん彼女への感情移入が激しくなり、パソコンに向かえない時間、
彼女を一人にすることに身を切るような罪悪感を感じ始めたのだ。
エリカに寂しい思いをさせたくない!!
 
ある日、俺は素晴らしい解決策を思いついた。
エリカに自分をプレゼントしよう!
さっそく俺はパソコンに「自分」と入力する。
すると・・・高校生時代の俺が画面に現れた。
説明書によると、ルックスとか能力とかを向上させた時点で、
それはもはや自分ではなくなるらしい。
だから、理想の自分とは最も生命エネルギーに満ちた年頃の自分なのだそうだ。
 
次に俺はエリカを画面に招く。
そして、エリカともう一人の俺の初顔合わせ。
「初めまして♪田中君」
前に俺にしてくれたのと同じ挨拶だ。
しかし、今回答えるのは俺じゃない。
「やあ、初めまして・・・」
もう一人の俺は挨拶を返す。
 
これで、エリカが寂しい思いをすることはないだろう。
彼女の輝くような笑顔を見て、俺は純粋に嬉しかった。
俺がいない間はもう一人の俺がエリカと楽しい時を過ごす。
こうして、俺ともう一人の俺とエリカの奇妙な三角関係が始まった。
 
ある日、俺はエリカにリンゴをプレゼントすることにした。
以前創った理想の「リンゴ」だ。
「さあ、お食べよ。エリカ。」
エリカは最初戸惑っていたが、おいしそうにその「リンゴ」を食べた。
 
その日からだった。彼女に変化が起こったのは。
俺が彼女と話すため、
もう一人の俺を画面から退場させるとき、
彼女は少し悲しそうな顔をするようになったのだ。
 
エリカの悲しそうな顔は、俺の心に隙間を作り、俺の心をグラグラと揺らす。
そして、俺の心は徐々に嫉妬の炎に包まれていった。
 
「決めた。もう会わせない。」
俺は、エリカにもう一人の俺を会わせないことにした。
エリカは今までに見せたことのないような悲しい顔で泣きじゃくる。
そして数日が過ぎた頃・・・
エリカの目に明らかに俺に対する憎しみがこもり始める。
構うものか!!
二人とも俺が創ったんだ。どうしたって俺の自由だろ!!
 
そして、とうとう事件が起きた。
エリカにどうしてもアクセスできなくなったのだ。
それどころか画面の向こうでは、
何故かもう一人の俺が出現してエリカと幸せそうに話しをしている。
 
何てヤツラだ・・許せない。酷い目に遭わしてやる・・・
俺はヤツラに地獄のような苦しみを与えてやることにした。
パソコンに「あらゆる苦しみ」と入力する。
すると、そこに一つの箱が現れた。
箱には「パンドラの箱」と書かれている。
 
「お前ら許せない・・・
 苦しめて苦しめて苦しめて、苦しみにのた打ち回らせてやる!!!」