「5S」と「ホウ・レン・ソウ」とそれらをやる「意味」

「5S」と「ホウ・レン・ソウ」。
これらの言葉を知っている人は、おそらく社会人の方でしょう。
両方とも、仕事の基本として叩き込まれることが多い言葉です。
 
まず「5S」とは、5つのS。
すなわち「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾(しつけ)」のことです。
製造業やサービス業の職場環境の維持改善を図るために用いられます。
 
私は、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」の4つはわかるのですが、
「躾(しつけ)」っていうのが意味がわかりません。
よくこの5つの言葉をスローガンとして貼り出している工場や職場がありますが、
この「躾(しつけ)」という言葉も、そのまま貼り出されていたりします。
これを見た従業員は「5Sをやらされている」という感覚に陥らないのかなぁと
いつも心配になります。
私だったら最後のSは、「素敵な職場」にしますね。
「整理」「整頓」「清掃」「清潔」をやる意味は、「素敵な職場」をつくることです。
こんなスローガンだったら、従業員も「やらされている」という認識ではなく、
自分達で自主的に「素敵な職場」をつくろうという前向きな気持ちになると思うんです。
経営の世界の言葉は、今の時代に即さないものも結構あります。
ちゃんとその言葉の本質を理解して使わないと本来の効果が得られないこともしばしば。
例えば、何も考えずに「躾(しつけ)」と張り出している工場や職場がある一方、
4Sとして「躾(しつけ)」を外して貼り出すところや
最後のSを「仕組み化」などの言葉に変えているところもある訳です。
従業員を、モノと見るか、人と見るかで、この部分は分かれてくるような気がします。
 
次に、「ホウ・レン・ソウ」。
この言葉は、「報告」「連絡」「相談」の略。
主に、仕事において部下がやるべきとされる3つの基本事項です。
ビジネス本を見ると、「これらは部下の義務だ!」と宣言しているものも多い。
確かに、「報告」「連絡」「相談」は仕事を円滑に効果的に進めるためには重要な基本作業ですが、
部下が上司に対してやるべき「義務」と言われると違和感を覚えるのです。
そりゃあ、機械やプログラミング言語の世界なら
動作すべき側が命令に従って淡々と「義務」をこなしますが、
人間がやることには、「義務」だけではなく「意味」が伴わないと
その動作はいつか自然消滅してしまうんだと思います。
「ホウ・レン・ソウ」の意味とは何でしょうか?
私は、「ホウ・レン・ソウ」の意味は「優しさ」であると考えています。
職場の新人に「ホウ・レン・ソウ」を教える時は、
上司への「優しさ」として行う行為であると伝えています。
例えば、お願いした仕事がどうなっているか上司が心配しているかもしれない。
だから、その心配を解消してあげるために、「報告」を行うのです。
同様に「連絡」や「相談」も「優しさ」で意味づけることが可能です。
「ホウ・レン・ソウ」の意味を「優しさ」と定義すると、
それらの行為を受けた上司には、当然「ありがとう」という意思表示が必要になってきます。
「「ホウ・レン・ソウ」は部下の義務である」と上司がふんぞりがえっている職場では、
「ホウ・レン・ソウ」という行為が形式的になっていったり、自然消滅したりします。
機械やプログラミング言語なら、
ある動作を行わせたい時には、行為者に命令をするだけで永続的にその動作を行いますが、
人の場合は、行為者と受け手の双方が、お互いの行為を意識して、行為の都度、
「優しさ」や「感謝」といった心の通貨を双方向にやり取りする必要が出てくる訳です。
 
「5S」や「ホウ・レン・ソウ」は基本的なビジネス用語ですが、
それらの行為者が「人」であるということの本質を考えずに
使われてしまっていることが多いと感じます。
ビジネスとは、「人」とのコミュニケーションの積み重ねです。
その行為を「人」にやってもらう「意味」とは何か?
そこを意識できない社長だと、
職場に「躾(しつけ)」なんて貼り出すことになってしまうんだと思います。
機械に何かをさせるのとは訳が違うんですよ。
「人」という存在は、指示された言葉について、一生懸命「意味」を読み取ろうとします。
「躾(しつけ)」なんて書いてあったら、
従業員がどんな解釈をするのか容易に想像できますよね。