「世界」とこんにちは

私は、動物行動学を「私達人間」を知るための重要なツールとしています。
 
それは、車の仕組を理解するには、
様々な機能のついた最新のオートマ車を観察するよりも、
マニュアル車や原付バイクを観察した方が早いからです。
 
まず原付バイクの仕組を理解すれば、
最新のオートマ車の基本も想像がつくようになります。
エンジンやブレーキやランプ、
原付バイクに組み込まれているものはオートマ車にも必ず組み込まれている訳です。
 
私は現在、動物行動学を学ぶに当たり、二人の先人の研究成果を大いに頼りにしています。
 
一人は、リチャード・ドーキンス博士。
彼の「利己的遺伝子」の考え方は、動物の行動を観察して得た「生命」の動作目的。
もちろん「人間」にも当てはまる重要な動作原理です。
 
もう一人は、ノーベル賞を受賞したコンラート・ローレンツ博士。
彼の著書を2冊読了しました。
1冊は、電子書籍にも移籍されている「ソロモンの指輪」(早川書房)。
これは、読み物としても非常に面白いです。
電子書籍でも購入できるので、生き物が好きな方は是非読んでみて下さい。
もう1冊が、「攻撃 悪の自然誌」(みすず書房)です。
こちらは、残念ながら電子書籍化されていません。
私は、中古本をアマゾンで購入した次第です。
 
この書籍には、長年動物を観察してきた博士の目から見た、
人間同士の争いや仲間意識といったものが描かれています。
動物の興味深い行動の紹介と博士の分析がまずあり、
後半の章で、人類の行動原理について博士なりの論点が展開される流れです。
 
この書籍にも、私が紹介したい興味深い事例と分析がたくさんあり、
後日少しずつこのブログで紹介していきたいと考えています。
いづれも、人間の行動を理解するために、
人間側から見ても辿りつけない新鮮な発見を提供してくれる内容です。
 
今日は一つ、昨日の記事からの流れで、紹介したい動物の行動があります。
 
ハイイロガンは、群れという「仲間」を持つ動物です。
彼らは「仲間」同士の挨拶を欠かしません。
「われわれは仲間同士だ。われわれは力を合わせて外敵に立ち向かうぞ。」という
意味を込めて、
彼らは常日頃から挨拶の鳴き声を掛け合うのです。
 
彼らにとって「仲間」は非常に重要であるため、
ヒナとして生まれた瞬間から、挨拶の鳴き声をあげ、
その「仲間」に入れてくれるようねだります。
 
しかし、そんなガンのヒナを1羽仲間から隔離して「みなし児」として育ててみると、
無生物的環境および生物的環境に対する行動に、一連の著しい障害が表れるのだそうです。
「みなし児」となったヒナは、「世界」から逃避するようになります。
 
ヒナは、くちばしを部屋の隅に向けたまま座るようになるのです。
そして同じ境遇のヒナを2羽、同室に入れると、
彼らはお互い、対角線上に向かい合う隅を向いて座ります。
 
彼らは、「仲間」からも「世界」からも目を背けるようになるのです。
 
この現象は、施設で保育され、十分な社会的接触を奪われた人間の赤ちゃんにも現れます。
そのような赤ちゃん達は、顔を壁に向けて腹ばいになるのだそうです・・・。
 
「生まれる」ということは、私達のような「仲間」を持つ「生命」にとって、
「世界」(「仲間」)との初のお見合いの場となります。
この時に、「世界」(「仲間」)から温かく受け入れてもらえないと、
そのお見合いは失敗し、生まれたばかりの「生命」は、
「世界」から逃避するようになる訳です。
 
幸い私達の多くは、親からの愛情をもらい、
うまく「世界」(「仲間」)の一員になることができました。
だから、私達は今現在も「世界」(「仲間」)と共に生きることができている訳です。
 
しかし、私達は長く生きる中で「世界」からの厳しい洗礼を受けた結果、
上記の施設で保育された赤ちゃんのように、
顔を壁に向けて横ばいになってしまっている可能性があります。
 
もちろん私達は、壁を一日見つめている訳ではありませんが、
その代わりに、テレビやスマホやPCの画面を長時間見つめている訳です。
 
「生まれる」ということは、私は「世界」とのお見合いの場だと考えています。
そして「生きる」とは、「世界」との同居の場です。
 
しかし私達の多くは、「世界」との折り合いがつかず、
「世界」から顔を背けることに意識が向きがちになっていると感じます。
 
しかし、愛情たっぷりに育てられた子ども達を見て下さい。
彼らは、元気に遊び回ります。
「世界」に自分から飛び込んで、いろんなことをしようとするのです。
そのように「世界」と触れ合うところに、「幸せ」が生ずると私は考えます。
 
その証拠は、子ども達です。
遊びで走り回る子ども達ほど、「幸せ」そうな存在はありません。
 
前回ブログで提示した「子ども達の2台行動原理」。
(1)「不快」や「不幸」からは逃げる。
(2)「興味」や「幸せ」に向かって動く。
 
やっぱり私達大人は、(1)に終始してしまう傾向にあると考えます。
(2)の行動をして初めて、「幸せ」を感じることができると考えるのです。
 
コンラート・ローレンツ博士は、書籍に書いています。

まだ経験のまったくないかえったばかりのガンのひなは、
自分に近づいてくる最初の生物に小さな勝ちどきのさえずりをあげて
友だちになってくれるようにとねだる。
この生物が自分の両親のどちらかにちがいないと「仮定して」いるのだ。
その子どもらしい信頼の行動を見ていると感動させられる。

 
私達大人もガンのヒナを見習い、「世界」をもう一度信じて、
「世界」で思いっきり遊べるよう、「世界」を好きになる必要があるかもしれません。
そうすることで、
子どもの頃のような「幸せ」を再び感じることができるようになると考える次第です。