「人類」ミーツ「言語」

今回は、前回の続きです。
前回ブログ:「私」は、「言語」で創られる
 
前回、「人間」と他の動物を大きく隔てている要素は「遺伝子」ではないと描きました。
「人間」が「言葉」を得たことによって、
他の動物と全く次元の異なる存在になったのです。
 
前回も描きましたが、
「言葉」には2つの用途があります。
一つは、他者とのコミュニケーションツール。
もう一つ、より重要な機能が「思考」するためのツールです。
 
想像してみて下さい。
もしあなたに「言葉」がなかったら、あなたの頭の中はどうなりますか?
 
「空白」です。
おそらく他の動物と同じように、
大きく「感情」に支配される存在になると思います。
 
空腹になったら、食事を探す。
怖い場所からは、遠ざかる。
眠いときには、眠る。
 
しかし「感情」は、「私」ではありません。
「感情」は、
「私」以外のところ(「無意識」や「体全体」)からもたらされる衝動なのです。
 
「言葉」がなかったら、私達は今の私達のままでいられるのかどうか。
 
今あるこの「私」という感覚は、
「生命」が「言葉」と出会うことで初めて現れた現象であると、私は考えます。
 
もう一つ、想像してみて下さい。
全く同じ型のノートPCが2台あるとします。
1台には、様々な便利なソフトがインストールされており、
もう1台は、工場出荷状態のまま。
両方共にウィンドウズのような「基本OS」はインストールされています。
 
この2台の設計図は同じでも、存在としては全くの別物だと言えるはずです。
 
同様に、「言語」獲得前の「人類」と獲得後の「人類」は全くの別物だと、私は考えます。
「言語」獲得前の「人類」は、今の「人類」よりも、他の動物に近い存在のはずです。
 
上記のノートPCの例で「基本OS」と描きました。
これは「脳」の本来の機能である、
生きるために必要最低限の「行動」制御機能のことです。
この「行動」制御の機能は、出荷時からプレインストールされています。
 
「遺伝子(Gene)」でできることは、ここまでです。
 
そして「生命」のバトンは、「脳内情報(Meme)」に渡されました。
個体の「脳」から「脳」に複製増殖する「言葉」というプログラミング言語を得ることで、
「人類」は別次元の存在に変質したのです。
 
ちょっとここから論理を飛躍させます。
 
私は前回ブログで、「受動意識仮説」を紹介しました。
(詳しくは、過去ブログをどうぞ)
 
「受動意識仮説」を私の解釈も交えて簡単に言うと、
「私(意識)」は、私達の「行動」を決定していないということ。
「無意識」もしくは「体の細胞全体のネットワーク」が「行動」を決定しており、
「私(意識)」はそれを「体験」させられている存在であるということ。
 
この仮説に従えば、
「私(意識)」は、「人生」というアトラクションの体験者ということになります。
「私(意識)」に、体の行動を決定できる「自由意思」は存在しないのです。
 
一方で、現にここに「私」という体験者が存在しているという実在感覚。
この「私」という感覚を司っているのが、
「言葉」であり「情報(Meme)」であると、私は考えます。
 
この世界で、複製増殖して永遠にあり続けようとする存在は2つだけです。
すなわち「遺伝子(Gene)」と「脳内情報(Meme)」。
(詳しくは、過去ブログをどうぞ)
 
全ての「生命」は、「Gene」の世界の住人です。
私達「人類」も、「受動意識仮説」からわかる通り、
体の構造機能や行動の意思決定等の基礎部分は「Gene」に支配されています。
 
しかし人類が突出して持っている「私」という感覚だけは、
「Meme」の世界からもたらされていると、私は考える次第です。
 
単細胞生物に「私」という感覚があるとは、誰も考えません。
そういう意味では、単細胞生物は「人類」よりもモノに近い存在だと言えそうです。
しかし単細胞生物は、モノと異なり「遺伝子(Gene)」を有しています。
 
「人類」という細胞群ももちろん「遺伝子(Gene)」を有していますが、
ある日この細胞群は、「情報(Meme)」と出会ったのです。
 
その結果、「私(意識)」というメタ的な概念が生まれました。
この「私」という存在は、「情報」の世界からやってきたと、私は考えるのです。