『死にたい・・』

『死にたい・・』
 
「死にたい・・」
これが今現在の俺の口癖だ。
人生のレールを踏み外してからの俺の口癖。
 
俺の心には、その言葉が充満している。
街を歩いていても、何かのきっかけでその言葉を呟く。
周りの人間が訝しげに俺を眺める。
 
今まで、俺は当然のごとく街の一員だった。
だが気がつくと、街と俺は明らかに異なる色彩を発していた。
俺は、もはや街の一員ではない。
 
ある日、俺は死ぬ覚悟を決める。
その言葉で心がパンパンに膨らみ、今にも破裂しそうだった。
破裂しそうな心を抱え、自殺で有名な樹海を目指す。
 
これで楽になれる・・・
俺は電車の席から夕焼けに染まった赤い景色を眺める。
帰宅する人で混雑する車内はどこかよそよそしく、別世界のよう。
 
俺の傍らに重そうな荷物を持った老婆が立った。
俺は老婆に席を譲ることを提案する。
人生で肩肘を張る必要がなくなった時、人は優しくなれる。
 
席に座った老婆は俺に話しかけてきた。
「ありがとね。あんたは優しい人だね。」
おべっかでもお世辞でもない掛け値なしの本音。
 
俺は笑顔で老婆の話しに受け答えをする。
だけど、相変わらず心の中から俺を追い詰めようとするその言葉。
つい突拍子もなく、その言葉が口をついた。
 
今まで笑顔だった老婆の表情が突然険しくなる。
「何言ってんだね?こんなに優しい人が何で死ななきゃならんの?」
俺は冗談ですよと笑顔で誤魔化し、老婆に謝った。
 
「私の家はここだから。ありがとね。」
老婆はしっかりとした足つきで次の駅を降りた。
・・・俺も家に帰ろう。
 
俺は見慣れた街に戻った。
俺の心の中に溢れるもう一つの言葉「一生懸命生きよう」
街と俺は相変わらず違う色彩を発している。