『虹の彼方に』

『虹の彼方に』
 
俺は心の無いブリキの木こり。
そして、そこの痩せている少年は脳の無いかかし。
あと、向こうにいる大柄の中年男性が臆病なライオンだ。
それぞれ、「ブリキ」「カカシ」「ライオン」と呼び合っている。
 
「ブリキの木こりさん、どうか私と一緒にエメラルドの都を探しませんか?」
「ドロシー」という謎の差出人から招待状が届いたのは、3日前。
招待状には、航空券も同封されていた。
行き先はオズの国のオズ空港。聞いたこともない国だ。
 
あまりにも胡散臭い内容。
普通の人間だったら、そのままゴミ箱行きにするのだろうか?
だけど、俺はすぐに旅の準備を始めた。
今の人生が死ぬほど嫌だったのだ。この人生を何とかしたかった。
 
現地に着き、指定の待ち合わせ場所に向かった。
そこには二人の男がいた。どう見てもぱっとしない二人。
まあ、俺も人のこと言えないけどね(笑)
彼らの話によると、一人はかかし、一人はライオンとして招待されたようだ。
 
「ようこそ!来てくれてうれしいわ♪」
三人が揃うのを見計らったかのように、
小さくて黒い犬を連れた一人の少女が現れる。
「私はドロシー。それからこの子はトト。これからよろしくお願いします。」
少女は、愛らしく会釈をする。
 
そして、ドロシーは一枚の真新しい地図を取り出した。
「さあ、みんな見て!ここがエメラルドの都よ!!」
三人の男は地図を覗き込む。
「結構遠いの?」俺はドロシーに聞いた。
 
「遠いなんてものじゃないわ!ブリキの木こりさん。」
ドロシーは興奮気味に答えた。
「私たちが助け合わなければ、とても辿り着けないのよ!」
彼女は力説する。トトも興奮して「ワン!」と吠える。
 
この日は、空港の近くの宿屋に泊まることになった。
俺たち3人は大きめの同じ部屋で寝ることにする。
「一体、エメラルドの都には何があるんですかねぇ?」
カカシさんが考え込んでいる。
 
「さあ、分かりませんねぇ。それに道中にもいろんな町がありますよ。」
ライオンさんはドロシーから借りた地図に見入っている。
「カカシさんもライオンさんも、もう行くって決めたんですか?」俺は二人に尋ねる。
二人は笑顔で頷いた。「ええ、何だか楽しそうじゃないですか?」
「あなたはどうするんです?」ライオンさんが逆に俺に聞く。
 
実は、俺の心も決まっていた。
「俺も行きます。よろしくお願いします。」
 
明日は朝6時に宿屋の前に集合。二人は早めに寝てしまったようだ。
だけど俺は何だか眠れなくて、部屋の窓から満天の星空を眺めていた。
明日からの旅のことを考えると、体が熱くなってくる。
はるか昔にすっかり諦めてしまったはずの何か。
俺の中で、そいつがすごい熱を発していた。