『生命の唄』

小説を発表します。
1月28日のブログで描きたいと言っていたテーマです。
あれから、3ヶ月以上経過しましたが
少しずつ携帯に、この小説を書き溜めていました。
 
お陰さまで、このブログも1万アクセスを達成しました。
記念という訳ではないのですが、ようやく完成しましたので、
何年ぶりかの久しぶりの小説を発表したいと思います。
 
ちなみに、この小説に登場する子猫たちの風景も私が目撃したものです。
独りよがりの自己満足ですが、
彼らの深い悲しみと苦しみと怒りに、
ほんの僅かでも意味を持たせることができたでしょうか。
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『生命の唄』
 
花が咲き誇る4月の早朝。
時折吹く冷たい風が身をこわばらせる。
 
道ばたに2匹の子猫がじっと佇んでいた。
彼らのそばには、もう動かない母猫が倒れている。
目を覚まして欲しいと、子猫たちはじっと母猫を見つめる。
 
すると、上空から凄まじい小鳥の鳴き声が響き渡った。
子猫たちが空を見上げると、そこには電線上のカラスに襲いかかる一羽のツバメ。
カラスは面倒くさそうにクチバシを大きく広げて、近づくツバメに威嚇を行う。
ツバメは怯んで踵を返すが、すぐに体勢を立て直し、
凄まじい鳴き声をあげながら再びカラスに攻撃をしかけていた。
 
ツバメは攻撃しては退避し、また退避しては攻撃し、終わりのない円を空中に描く。
心の張り裂けるような鳴き声とともに。
 
よく見ると、カラスの足元にはヒナのいないツバメの巣があった。
ヒナはカラスに食べられてしまったのかもしれない。
 
ツバメの悲痛な鳴き声を聴いて、
子猫たちは、つい昨日までは当たり前にあった母猫との暮らしを想った。
人間が近寄って来た時、
いつでも母さんは聞いたことがないような怖い鳴き声をあげて人間から護ってくれた。
おなかが空いた時、いつでも母さんは僕たちにおいしい食べ物を探してきてくれた。
寒くて眠れない時、いつでも母さんは僕たちを体の傍に引き入れてくれた。
 
ツバメの捨て身の攻撃が続く。
子猫たちの胸の中いっぱいに、母の優しさと強さが広がっていく。伝わっていく。
 
2匹の子猫は、母猫の体に額を擦りつけて、母猫から少し離れた。
そして上空を見上げ、ツバメに鳴き声をあげる。
 
2匹のとても優しく、そして強い一声。
ツバメは鳴き声の方を見下ろし、2匹の子猫を確認した。
子猫たちは、母猫の傍を離れ、振り返らずにその場を立ち去っていく。
ツバメは、彼らの後姿に優しい視線を投げかける。
そして、最後に渾身の攻撃をカラスに仕掛け、
チュビと一声鳴いて、そのまま子猫たちとは反対の方向に飛び去っていった。
 
暖かな太陽の日差しが、世界にふりそそぐ。
カラスは少し首をかしげ、眩しそうに太陽を見上げた。