ミノムシが消えた

ミノムシを知っていますか?
もしかしたら、最近の人は知らないのかもしれませんね。
なにしろ、各自治体のレッドリストで「絶滅危惧種」に選定されている虫ですから。
 
「えっ?絶滅危惧種?」とびっくりされる方も多いと思います。
一昔前までは普通に見かけた虫ですからね。
理科の教科書にもミノムシの実験が載っていました。
下の写真を見てもらえばわかるとおり、
ミノムシの幼虫は摂食後の枯れ葉や枯れ枝に粘性の糸を絡め、
袋状の巣を作って枝からぶら下がることで有名です。
 

 
ミノムシは、正式にはオオミノガという蛾の幼虫を指します。
この幼虫が、周辺の枯葉や枝で作ったミノに入ったまま越冬し、
春に蛹化し、夏に羽化する訳です。
ウィキペディアこちら。)
 
さて、何故ミノムシは、1990年代後半から激減してしまったのでしょうか?
これは、オオミノガに寄生する外来種オオミノガヤドリバエの仕業です。
このオオミノガヤドリバエは、主にオオミノガの終令幼虫を見つけると、
摂食中の葉に産卵し、卵は葉と共に摂食されます。
口器で破壊されなかった卵はオオミノガの消化器に達し、体内で孵化するそうです。
1個体に付き、平均10羽程度のオオミノガヤドリバエが羽化するらしいですから、
ミノムシからしたら、本当に恐怖以外の何者でもありません。
ミノあたりの寄生率は、実に5割から9割にも達するようです。
寄生率は九州に近いほど高くなるため、
この寄生バエは中国大陸から進入したと考えられています。
 
「当たり前にあると思っていたもの」がなくなる寂しさ。
ミノムシは俳句の季語でもあり、
枕草子にも登場する由緒正しき、日本人とともに歩んできた虫です。
 
まあ、そんな昔なじみの虫に対しても、弱肉強食は容赦しません。
情緒のへったくれもありませんね。
 
基本、世界は「奪う」環境なのです。
そして、私たち人間も、多くを「奪う」形で生きています。
肉を食べ野菜を食べ、他者からもいろいろなものを与えてもらって生きているのです。
 
しかし、「奪う」「奪われる」の世界は、生命にとっては地獄の環境です。
遺伝子に操られているだけでは、
個の生命は「苦しみ」の中にしか存在することができません。
仏教で言うところの「畜生道」ですね。
 
以前のブログ「遺伝子(種)と命(個)の闘争」でもお話をしましたが、
チンパンジーやイルカ、人間等の進化の先端にいる生命は、
冷酷な「遺伝子」の支配に対抗して、「与える」ことを身につけました。
最近の研究では、ネズミも他者への「共感」を示すことが発見されています。
 
40億年間の生命に課せられた当たり前のルール、「奪う」。
私たち人類も、「奪う」環境から逃れることはできません。
だからこそ、「与える」ことが貴重で美しいのです。
 
なぜ、人は「与える」ストーリーの映画やドラマを観て感動するのか?
それは、40億年越しの生命の悲願が、目の前で実現しているからなのです。
永い永い間苦しんできた魂が、揺さぶられているのです。
 
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