ほっとした。

ある人に、お金を貸しています。
その方は、以前の職場で私がとてもお世話になっていた方。
 
私が退職した後の話ですが、
その職場は、ある日突然廃業をしました。
廃業の時に在席していた従業員の方々は、
その会社の取締役の方の口利きで、
同業他社に移籍することができたようです。
 
当時、私はその話を聴いて安心したのですが、
今お金を貸しているその方だけは、事情が違いました。
 
廃業になる前の時期に、
原付で通勤中、自損の交通事故を起こして入院されていたのです。
そして、その方の入院中に突然会社が廃業となってしまいました。
結果的に、退院したら失職していたという状態になってしまったのです。
 
その方は、年齢60近くの男性です。結婚はされていません。
私は、その方のことを心配していたのですが、
ある日、その方から私の携帯に電話が入りました。
 
「今会社の近くにいるので、もしよかったら少し話をさせて欲しい」
 
再就職先が見つからず、生活費に困っている。
少しお金を貸してもらえないかというお話しでした。
二週間後には返せるというお話しだったこともあり、私は快諾しました。
 
そして、二週間後にその方から再度電話があり、
また、会って話をすることになりました。
 
会ってお話を伺うと、「お金はまだ返せない」「申し訳ない」とのことでした。
更に、
「失業手当が○日に支給されるので、その時に返済できそう」
「しかし、その日までの生活費が工面できず、また少しだけ貸してもらえないか」
というお話しでした。
 
この時、正直私は少し悩みました。
ですが、この方のおそらく食べるものにも不自由しているであろう現状を考えると、
お断りせずに、またお金をいくらかお貸しすることにしました。
前述しましたが、その方には以前の職場で本当にお世話になったのです。
仕事で困っている時、何度も助けて頂きました。
 
私にとって、人から頂いたそういった「無償の優しさ」の価値は、プライスレスです。
はたして人は、人生の中でどのくらいの「無償の優しさ」に出会えるでしょうか?
環境にもよるでしょうが、「無償の優しさ」を頂ける方と出会う頻度は、
そんなに多くないと思います。
 
また、その方は以前の職場では、
家族を抱えて生活費に困っていた他の従業員の方に、お金を貸していました。
そういった方なのです。
 
それから心をよぎったのが、人からお金を借りる時の「心」の苦しさ。
その方は、職場の中で皆に好かれる面倒見のよいかっこいい先輩だったのですが、
そういった方が、数年前に職場を離れた後輩の私に、金銭を借りる話をもちかけるのは、
どれだけ葛藤され悩まれたことか。
 
それらのことが私の「心」に去来し、私は更にお金をお貸しすることに決めたのです。
 
 
そして後日、お金を返済して頂ける予定の日に、私宛にその方から電話を頂きました。
 
内容は、「もう少しだけ待って欲しい」とのこと。
その時、私は「就職先が決まって、落ち着いてからでいいですよ」とお伝えしました。
「その代わり、返済時には利息として飯代をおごって下さい」
 
それから先は、現在まで連絡がないのですが、
数日前に、偶然その方を街で見かけました。
おそらく、仕事で商品を配送中なのでしょう。
自転車の荷台に商品をくくって、大通りの対岸を横切っていきました。
 
私は、その姿を見てほっとしました。
「ああ、お元気そうでよかったなぁ」と。
私の中では、なんだかそれだけでお金を返して頂いたような気分になりました。
仕事で疲れていた「心」に、何か温かいものが流れ込んできたように感じたのです。
 
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