「利己的な腸」

利己的な遺伝子」という
リチャード・ドーキンス博士が提案した有名な生命の解釈があります。
 
個々の生命は「遺伝子」の乗り物に過ぎないという考え方です。
「遺伝子」には、自身のコピーを増殖させるという至上命題があります。
その目的を達成するために、
「遺伝子」は個々の生命を使い捨ての乗り物にしている訳です。
(詳しくは、過去ブログ「遺伝子(種)と命(個)の闘争」をご覧下さい)
 
私達個々の生命からしたら非情な話です。
しかし、自分達の遺伝子を守るために自らの命を捨てるミツバチの例、
メスを奪い取ったオスが、そのメスの子を殺してしまうハヌマンラングーンという猿の例、
様々な自然の実体から、
利己的な遺伝子」は正しいだろうという意見が世間に定着しています。
 
私も「世界」を解釈する上で、「利己的な遺伝子」の考え方を大きく取り入れている次第です。
ただ発達した「脳」を持つ人間を初めとした「個」の強い生命では、
「個」が、単なる「遺伝子」の言いなりのロボットではないと考えています。
「個」は「遺伝子」の利得のためだけでなく、
例えば「優しさ」という価値観で利他的な行動をすることもあるのです。
 
詳しくは上記でもリンク付けしている、過去ブログ「遺伝子(種)と命(個)の闘争」をご覧下さい)
 
まあとにかく、
個々の「生命」は「遺伝子」の下位の存在であるということを、
利己的な遺伝子」では言っています。
 
この考え方が、衝撃と共に多くの人々の関心を集めたのは、
「ええ?私達の存在って、遺伝子の便利なロボットに過ぎないの?」という、
コペルニクス的転回があるからです。
 
そして最近もう一つ、
私達にコペルニクス的転回をつきつける話題があります。
それは、「腸」という臓器が、私達の体の影のボスであるということ。
 
ここで一つ考えて欲しいのですが、
光合成をしない動物が生きるために最低限必要な器官とは何でしょうか?
 
「脳」ですか?「手足」でしょうか?はたまた「目や鼻」のようなセンサー?
答えは「腸」です。
食物をエネルギーに変える装置さえあれば、生きることができます。
(もちろん増殖するための生殖器も必要ですが)
 
実際に、珍渦虫という動物の進化の初期段階に位置する単純な生物がいます。
この動物の体の構造は非常に単純です。
脳、中枢神経系や、生殖腺その他の独立した器官も体腔もなく、
下向きの口とそれに続く「腸」だけがあり、肛門すらありません。
つまり、確認できるのは口と腸だけの生き物なのです。
ウィキペディアは、こちら
 
進化の初期段階にこういう動物がいるのであれば、
脳や手足や目や鼻、はたまた肝臓や胃は、
もともとあった「腸」のためにつくられた器官であると考えることができます。
「腸」が十分な食べ物を得るために、他の器官を進化させた訳です。
 
ですから私達の体は、「脳」ですら「腸」の言いなりになっています。
私達が最も頻繁に日常で感じる大きな苦しみは、
「腸」から発せられる「便意」であるはずです。
電車の中で腹痛の伴った「便意」に遭遇すると、
それこそ神に祈るような苦しみを味わいます。
 
「そこまで苦しくしなくてもよいのに!?」と叫びたくなるのは、
私だけでないはずです。
「少しは沈黙の臓器と呼ばれる肝臓を見習えよ!」と、言いたくなります。
(もちろん、肝臓のようにシャイ過ぎても困りますが・・・)
 
いずれにしても、
「腸」は私達の中で、ジャイアン並みの発言権を有しているのです。
 
「腸」が影のボスであるという、他にも興味深い情報があります。
以下、カラパイアさんの「腸は第2の脳。腸に関する10の豆知識」という記事の引用です。

1. 脳の監視がなくても機能できる唯一の臓器
 腸は権威に抗するレジスタンスのように、
 脳からの信号を待つことなく消化という重要な機能を果たすことができる。
 こうした芸当は、他の臓器はもちろん、あの力強い心臓でさえできないことだ。
2. 1億個もの脳細胞が存在する
 腸が自分で判断できるのも驚くにはあたらない。
 食道から肛門まで続く9mの腸には、無数の脳細胞が存在するのだから。
 このニューロンの数は脊髄や末梢神経系よりも多いのだ。
3. 腸は独自の神経系を持つ
 腸の神経系は、消化や排泄を司る絶対者として君臨しており、
 それ自体であらゆる機能を遂行する。
 科学者の中には、ここを中枢神経系の一部とみなす者や、
 その本体であるとみなす者もいる。
 ”実行”刺激がくると、脳からの司令なく腸にキューを出すよう進化したようにも見える。
 これは無力な新生児の脳を考えると特に妥当に思えてくる。

とても、興味深いですね。
 
他にも、「腸」からの信号を「脳」は「感情」として解釈している等、
面白い情報がたくさんありますので、
興味のある方は、上記カラパイアさんの記事を見に行って下さいね。
 
本日の「考察」や「調査」を通じて、
私の中では「腸」が私達の影のボスであるという認識が強まりました。
今回は記事のテーマにしませんでしたが、
腸内フローラルと言われる腸に住む腸内細菌群も
私達の様々な部分に大きな影響を与えているようです。
 
暴飲暴食で下痢の多い私ですが、
今後は「腸」を大切にし、
毎朝ヨーグルトを献上しようかなと思っています。
「腸」様を怒らせると怖いですからね。
 
(以下は、腸と口だけの動物「珍渦虫」の写真です)