三倍体というクローンで増える植物

雑草を調べていると、クローンで増える植物が結構多いことに気がつきます。
 
一番ノーマルな植物の増え方は、
おしべとめしべによる受粉です。
しかし、せっかく花を咲かせるのに、
花粉が持ってくる他の花の遺伝子を使わずに、
自分のクローンで増える植物がいます。
 
三倍体と言われる植物達です。

何が三倍なのかと言うと、
染色体が3倍なのです。
最も一般的なのは、私達人間も含めて二倍体の生物です。
これは、染色体を2セット有しているということになります。
二媒体は子どもや種子をつくるときには、
オスとメスの2セットのうち1セットを持ち寄って、
新たに子どもの染色体を2セットつくるのです。
2セットのうち1セットだけの生殖細胞をつくることを減数分裂と呼びます。
 
では三媒体の生物ではどうなるかと言いますと、
この減数分裂を行うことができないのです。
3を2で割ることができませんので。
 
するとこれらは、不念性という有性生殖ができない状態になります。
種なしスイカは、人間の手でつくられた三倍体植物です。
三倍体なので、種をつくることができません。
 
「じゃあ、どうやって増えるの?」という話になりますが、
人間が種無しスイカの苗から芽を摘んで挿し木をして増やすのです。
 
「じゃあ、自然界に三倍体は存在しないのかな」と考えると、それは早計。
セイヨウタンポポドクダミヒガンバナは、皆三倍体で、元気にやっています。
 
「???、どうやって増えてるんだ?」という話になりますが、
ヒガンバナは球根で増えているようです。
「球根で日本各地に広がるのかよ?」という突っ込みが聞こえそうですが、
そこには人の手が介入しています。
まずヒガンバナの毒のある球根は、農業を営む日本人にとって有用でした。
モグラに対する忌避効果があるので、水田の畦に植えられました。
また毒抜きをすれば食べることもできるので、飢饉に備える意味もあったようです。
近年では、ヒガンバナを観賞するために植栽している場合も多いと思います。
このような有用性から、人々の移動と共にヒガンバナは増えていったのでしょう。
 
しかしセイヨウタンポポドクダミは、
明らかに人の手を使わずに自分でどんどん増えています。
 
奴らは何者なのか?
 
漫画とか映画のパターンで言うと、
絶望的な環境に放り込まれながらも、
その中から僅かに生き残った常人を越える能力を持つミュータントのような存在です。
 
彼らは、三媒体なのに種子を作ります。
普通の植物は、受粉をしないと種子をつくれませんが、
彼らは自分のクローンの種子をさっさとつくってしまうのです。
 
この結果、二倍体の日本在来のタンポポは、
新参のセイヨウタンポポとの生存競争に負けつつあります。
セイヨウタンポポは、受粉という制約なしに、
バンバン自分のクローンを増やせるからです。
 
こういう風に見ていくと、
オスとメスの出会いが必要な有性生殖よりも、
自分のクローンをバンバンつくれる無性生殖の方が、
種を繁栄させるという意味では有効な気がしますね。
しかし長い進化の末、生命が有性生殖という仕組をつくったことには意味があるのです。
遺伝子を毎度毎度シャッフルすることで、種に多様性を持たせることができます。
 
例えば、同じ遺伝子だけの群れだと、一つの病気が流行った時に全滅する恐れがある訳です。
遺伝子に多様性があれば、その病気に耐える個体も存在する可能性が高くなります。
 
近視眼的に見ると、クローンは効率のよい種の繁栄のさせ方なのですが、
長期的に見たらクローンは、絶滅を招くリスクが高い戦略な訳です。
現在我が世の春を謳歌しているセイヨウタンポポドクダミが、
いつか一気に地球上から消えることもあるかもしれません。
 
多様性は重要です。
人間は、最も多様性の恩恵に預かっている種だと思います。
一人一人の個体には、強みと弱みがあり、
それらを補い合うことで地球の強者になれている訳です。
 
それぞれの個人は、それぞれ異なった遺伝子を持っている。
一人一人が、自分だけの貴重な可能性を有しているのです。