漫画「ONE PIECE」と「哲学」とか「正義」とか

週間少年ジャンプで連載中の漫画「ONE PIECE」が
空前の大ヒットとなっています。
ウィキペディアによると、
コミックスは現在62巻まで出版中で、発行部数は累計2億3000万部を突破。
海外では翻訳版が30カ国以上で販売されています。
発行部数は既に漫画史上で一番の発行部数です。
 
また、男性ばかりでなく女性にも大人気。
キャラクターグッズを持っている女性も町でよく見かけます。
 
私は、ドラゴンボール世代なのですが、
後輩に勧められて「ONE PIECE」を読んでみました。
いやぁ、とても面白いですね。
 
ところで、最近の人気のある漫画には、ある傾向があります。
それは、読者一人ひとりに人生を考えさせるような「哲学」が織り込まれていること。
 
ドラゴンボールの頃には、なかった傾向です。
その証拠に、「ONE PIECE」には「ワンピース・ストロング・ワード」という
この世界を生きる人々に気づきを与える作中の言葉をまとめた本があります。
他の漫画でも同様に、
作中の人生に対する気づきの言葉をまとめた本が多数出版されています。
 
ドラゴンボールの方は、
人生に対する気づきの言葉が、そんなに登場する訳ではありません。
 
私は、「ONE PIECE」を読み終わった後に、
マイケル・サンデル博士の「これからの「正義」の話をしよう」を読みました。
こんな組み合わせで、「ONE PIECE」を読んだ人は、日本でも私くらいだと思いますが、
驚くことに、この二つの書籍には、とても共通点が多いことに気づきました。
 
その共通点とは、二つとも「正義」を大きな題材にしていることです。
しかも、様々なタイプの「正義」や「正義」の矛盾を読者につきつけ、
読者それぞれに「正義」とは何かを考えさせようとしているのです。
 
ONE PIECE」には、いろいろな「正義」が登場します。
そして、それぞれの「正義」の遂行者には、
ちゃんとした理屈が存在しているので、
一瞬どちらが正しいのか、わからなくなる時もあります。
 
まず、世界政府である海軍。
彼らは、ご丁寧に背中に「正義」と書いたユニフォームを着用しています。
海軍の中の人たちも、正義感に溢れた魅力的な人々が登場し、
彼らの敷いたルールを無視する無法者の海賊達と敵対します。
彼らは歴史的に由緒ある王族という秩序を守ろうとするのですが、
その崇められている王族は・・・。
この作品の海軍という組織は、
神の名の下に平気で人を殺す世界的にメジャーなあの宗教なども連想させたりします。
 
また、主人公のルフィの父親は、そんな世界政府に抵抗する革命軍のリーダー。
革命軍の出番はまだこれからなのですが、
おそらく革命軍にも掲げる「正義」があるでしょう。
もしかしたら、大事のためには小事を犠牲にすることも厭わない「正義」かもしれません。
 
海賊達にも、様々な「正義」を掲げるグループがいます。
「自由」「夢」「家族愛」「力」「母性」・・・。
 
私が観るに、「ONE PIECE」という漫画は「正義」のぶつかり合いなのです。
「正義」に正解なんてもちろんありません。
「読者一人ひとりが正義を決めろ!」と作者は、言いたいのではないかと思います。
 
ちなみに、主人公の「麦わら海賊団」は、様々な「正義」と対峙しますが、
惑わされることなく、しっかりと自分達で判断し行動します。
たとえ世界政府が相手であっても、自分達が「正義」でないと判断したら、
後のことは考えずに信じる道を突き進む訳です。
 
ところでマイケル・サンデル博士は、著書「これからの「正義」の話をしよう」の中で、
博士自身が信望する「正義」として「コミュニタリズム」という「正義」を挙げています。
「コミュにタリズム」とは、共同体主義のことで、
例えば、先の戦争に直接参加していない現代の日本人も、
戦争被災国に対して謝罪すべきだという論調となる考え方です。
そして、実は「ONE PIECE」の中で、
それが「正義」かどうか読者にぶつけている箇所があります。
主人公のルフィのお兄さんエースが子どもの頃、
親が世界中を騒がせた大海賊だということで悩む描写が出てきます。
町の人たちは、もしその大海賊の子供なんていたらぶっ殺しちまえ、と話す中、
自身には何の罪もないエースが、自分にも生まれながらに罪があるのか思い悩むのです。
 
この部分を読んだ読者は、この件に関する「正義」をどのように捉えたのでしょうか。
読者各人がそれぞれに、何が正しいのか考えたはずです。
 
私は、「ONE PIECE」がこんなにも売れる理由は以下の2点だと考えています。
(1)魅力的なキャラクター
(2)読者に対して「正義」とは何かをつきつけ考えさせる構成
 
今の日本社会は、残念ながら「正義」が存在しない社会。
原発で事故を起こしても、「正義」を掲げている政治家がいないから、
やっていることは右往左往の五里霧中で、利権の維持だけにはぬかりなく。
 
社会に「正義」がなく、社会が「正義」を示さないこのご時勢、
我々個人は、それぞれが自分で「正義」を判断しないといけない時代になりました。
 
ONE PIECE」の主人公麦わらのルフィが、
何のしがらみもなく自分で判断した「正義」の下に行動する。
今の「正義」の死んだ日本社会において、
これほど現れて欲しい魅力的なリーダーはいないかもしれません。
 
想像してみてください。
国民が「助けて・・・」と言ったとき、「当たり前だ!!!!!」と言える政治家を。