フクロテナガザルの「幸せ」の唄

マレーシアに、「幸せ」の唄を歌う猿がいます。
その猿の名は、フクロテナガザル。
 
この話は、「共感の時代へ(フランス・ドゥ・ヴァール著)」という書籍に載っていました。
動物行動学の観点から動物の持つ「共感」を解き明かしているお勧めの本です。
 
さて、このフクロテナガザル達は「のど袋」で独特の大きな鳴き声をあげます。
ほ乳類なのに、少し鳥を思わせるような鳴き声であり、
それでいて、どんな鳥よりも力強い鳴き声です。
 
ジャングルの気温が上がってくると、彼らは木のずっと上の方で鳴き始めます。
その声は、何キロメートルも先まで届くのだそうです。
 
フクロテナガザル達はニホンザルのような大きな群れではなく、家族単位で生活します。
そしてその家族単位で、彼らは自分達のテリトリーを保有しており、
侵入者から自分達のテリトリーを守ることが、彼らの重要な仕事の一つです。
 
彼らは侵入者を寄せつけないように、オスとメスが協力して、
「人間以外の陸上脊椎動物によるもののうちで最も複雑な音楽作品」と呼ばれる
デュエットを奏でます。
そのデュエットでは、メスが高音の叫びを上げ、
オスは鋭い声を出して合いの手を入れるというものです。
その歌声は、完璧なまでに音程が一致しています。
 
フクロテナガザルのペアが、
息を合わせて歌えるようになるまでには時間がかかるのだそうです。
ですから、他のフクロテナガザル達は、そのペアがどれだけ親密か、その鳴き声で聞き分け、
もし不協和音を聞きつければ、テリトリーに侵入してきます。
 
一方、ともに長い時間を過ごして一緒にたくさん歌うカップルは、
とても息の合ったデュエットを奏でることができるのです。
その歌声は、同じ種のメンバーに「近寄るな!」というメッセージを伝えると同時に、
「私たちは一つ」と高らかに宣言します。
フクロテナガザルがどれだけ「幸せ」な結婚をしているかは、彼らの唄で判断ができる訳です。
 
人間の夫婦にも、こんな結婚後の「共同作業」があるといいよねって、ちょっと思いました。
このフクロテナガザルの「幸せ」の唄のように、
結婚した後に二人で練習を積み重ねて達成する必要のある「共同作業」があると、
結婚後にも、もう一つ夫婦の「ゴール」を設定できるんじゃないかなと。
 
愛情は目に見えないものだから、
フクロテナガザル達のようにその愛情を素敵な唄に変換できると、
きっと毎日「幸せ」な気分になれるのではないかなと思う次第です。