クジラの恩返し

動物は、よくもわるくも人間よりもシンプルでストレートな存在です。
彼らの純粋な行動は、
忠犬ハチ公」や「盲導犬サーブ」のように、
時に私たちの寝ぼけた「心」を、目覚まし時計のように呼び覚ましてくれます。
そして、そうした時に私たちは忘れていた大切な何かを思い出すのです。
 
今日は、動物行動学者フランス・ドゥ・ヴァール著の書籍「共感の時代へ」から、
クジラと人間の素敵な出会いについてご紹介しましょう。
 
2005年12月、寒い日曜日。
カリフォルニア州の沖で、一頭のメスのザトウクジラが、
カニ漁に使うナイロンロープにからまっているところを発見されました。
 
クジラを救うため、レスキュー隊が出動しましたが、
絡まったあまりのロープの多さに、皆ため息をつきました。
およそ20本のロープがクジラに絡みつき、
一部のロープは体表を切り裂き脂肪層に深く食い込んでいたのです。
 
クジラを解放するには、水中に潜ってロープを一本一本切り離すしかありません。
ダイバー達は、クジラの強力な尾ではたかれたらひとたまりもないという危険な状況の中、
1時間の困難な作業をこなし、見事クジラをロープから解放したのです。
 
普通の動物だったら、自由になったら一目散に遠くに逃げ去っていたかもしれません。
しかしこのクジラは、なぜかその場に留まりました。
 
そして、その巨体で大きな円を描きながら泳ぎ、
ダイバーの一人にそっと近づいて、ダイバーに頭を擦りつけたのです。
それから次のダイバーへと移り、なんと全員に触れるまでそれを続けました。
 
ジェイムス・モスキートは、この体験を次のように書き綴っています。

私には、まるでクジラがお礼を言っているように思えた。
自由になったこと、私たちが助けたことがわかっているかのようだった。
(中略)
私は少しも恐ろしくなかった。
それは信じられないような素晴らしい体験だった。

このクジラの行動は、まさしく「感謝」ですよね?
このクジラは、間違いなくダイバーに助けられたという状況をちゃんと理解しています。
そしてダイバーの「心」に響いた、クジラの「感謝」は、
時空を越えて私たちの「心」にも到達し共鳴しているのです。
 
このクジラは、昔話の「鶴の恩返し」のように物質的なお礼をしてくれる訳ではありませんが、
その代わり人々の「心」に響くような100%純粋な「感謝」を人間に与えてくれました。
その「感謝」は、このブログで私が紹介しているように、様々な人々に語り継がれ、
今度は、ロープでがんじがらめになった人々の疲れた「心」を癒してくれているのです。
 
お礼をするのに、お金やモノなんてきっと必要ない。
「感謝」の「心」を感じるだけで、
人々は「生きてきてよかった」「生まれてよかった」と思えるのです。
 
私もこのクジラのように、
相手を「幸せ」にできるような素敵な「感謝」ができるでしょうか?
私はこのクジラのように、
多くの人々に助けられているという状況をちゃんと理解できているのでしょうか?
 
このクジラの素敵な「感謝」は、私の「心」をも心地よく奮わせてくれています。
 

 
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