植物の生存戦略「C-S-R三角形」

「C-S-R三角形」は、植物の生存戦略に関する仮説です。
ジョン・フィリップ・グライム博士によって提唱されました。
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この仮説で示されている3つの戦略は、以下の3つです。
(1)ストレスが小さく撹乱が少ない生育場所に適応した競争戦略(Competition)
(2)ストレスが強く撹乱の小さい生育場所に適応したストレス耐性戦略(Stress)
(3)ストレスが小さく撹乱の大きい生育場所に適応した撹乱依存戦略(Ruderal)
 
なお、ストレスが強く撹乱の大きい場所に生育できる植物はないため、
その環境に対応した戦略は考慮されていません。
 
まずストレス耐性戦略とはどのようなものかと言いますと、
この戦略を採る代表的な植物はサボテンです。
彼らは、他の植物ではとても生存できないような極度の乾燥にも耐える
驚くべき特殊技能を有しています。
もしくは、森林限界を超える高度でも生育できる高山植物もこれに該当するでしょう。
 
次に、攪乱依存戦略の説明をします。
攪乱とは、環境の変化ということです。
攪乱依存戦略の植物は、
予測不能な激しい環境に臨機応変に対応します。
我々に最も身近な雑草が、この戦略です。
 
安定した森林のような環境と違い、
雑草の生きる環境には、
サボテンの生える砂漠とはまた異なる厳しさがあります。
 
例えば、公園や庭に生えている雑草の生存する環境は、
いつ人間の芝刈り機で刈られるかわからないような環境です。
しかし、芝のようなイネ科の植物は、
葉の成長点が地面に近い低い場所にあるため、
例え葉の上の部分を刈られても、
またすぐに葉を伸ばすことができます。
これは本来、葉を食べる草食動物に対応するための戦術でした。
 
また根さえ残っていれば、
すぐに復活する雑草もいくらでもあります。
私の職場の近くに生えているヨウシュヤマゴボウは、
土から上の部分をいくら刈り取られても、
何度も何度も火の鳥のごとく復活しており、
驚異的な生命力です。
 
また人間は、宅地造成など土地に対する工事も頻繁に行います。
そんな環境では、1年草の植物は生育できても、
何十年かけて育つ樹木は生育できない訳です。
 
人間の手が入る環境には、
砂漠や高山地帯、ツンドラ地帯のような自然の過酷さはありませんが、
人間の活動に伴う物理的な変化が、目まぐるしく植物を襲います。
 
そして、最後に競争戦略の説明です。
環境によるストレスも、人間等による環境の攪乱もない、
安定した地では、他の植物に勝つ才能を持った植物が繁栄して森林を形成します。
 
樹木がひとたび繁茂すれば、光は背の高い樹木に独占され、
雑草のような植物が生える余地は失われるのです。
植物同士の競争という意味では、
この競争戦略を採る樹木が、最も強い植物であると言えます。
 
しかし他の戦略を採る植物たちは、
戦っている相手が違うのです。
ストレス耐性戦略を採る植物たちは、過酷な環境と戦っています。
そして攪乱依存戦略を採る植物たちは、
環境変化のスピードと戦っているのです。
 
生物が生きていくためにはどうしても競争が必要ですが、
植物の生存戦略を見ていると、
競争と言っても、必ずしも同種族同士の競争に限定する必要はないことに気づきます。
 
人間界の生存競争においても、
必ずしも他者より優れている必要はないと思うのです。
 
サボテンのように特殊技能の才能がある人は、
環境の脅威に打ち勝つ力を秘めています。
また雑草のように、予測不能な環境変化を幾度となく体験している人々には、
強靱な環境適応力や復活力が宿るはずです。
 
植物の世界を客観的に眺めると、
それぞれの戦略を採っている植物の間に、上も下もありません。
サボテンにはサボテンの驚異的な専門技術があり、
雑草には雑草の驚異的な柔軟性があるから、今も地球上で繁栄しているのです。
 
人間の世界も、俯瞰すれば同様だと思います。
よい学校に行って、大きな会社や官庁に就職して、
安定した環境を形成する人達もすごいですし、
自分の中の専門技術を磨き、
医師や弁護士、芸術等の世界で生きる人達も、
自分の力を活かした生き方をしていて、すごいです。
そして私の愛して止まない雑草は、
様々な環境変化を乗り越えて、毎年綺麗な花を咲かせます。
いくら刈り取られても、復活します。
 
森林の「安定」
サボテンの「特化」
そして、雑草の「変化」。
 
「変化」には、希望があります。
「変化」があったからこそ、生物は進化を果たしたのです。
 
樹齢の長い樹木と、1年や2年で世代交代する雑草とでは、
当然雑草の方が、進化のスピードが速いと思われます。
 
今私達人間の環境は、
変化のスピードを指数関数的に伸ばしているのです。
 
人類の経験した3つの大きな社会構造革命。
「農業革命」「産業革命」「情報革命」。
「農業革命」の後に人間の環境は激変しました。
そして長い年月の後花開いた「産業革命」。
産業革命」後の環境変化のスピードは、
「農業革命」後の環境変化なんて比べものにならないほどのスピードです。
 
そして今迎えている「情報革命」。
人間の環境変化は、凄まじい勢いで加速を続けています。
 
そうした文明の発展による環境変化は、
個々の人間からすると、攪乱の大きい環境と言えるでしょう。
 
これから先の競争相手は、人間ではありません。
おそらく環境変化が、個々人にとっての最も大きな闘争相手となるでしょう。